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アペックス便り11月号

●速さに追われず、静けさとともに〜変化の時代を生きる心の整え方〜

かつて、時代の変化の速さを「ドッグイヤー」や「マウスイヤー」と呼んだことがある。犬の一年は人間の七年、マウスならさらにその数倍――そんな比喩で、技術革新のスピードを語っていた時代があった。けれど今、その比すら追いつかない。人工知能が新しい言葉を生み、情報が数秒で世界を駆け巡る。昨日の新しさが今日には古びて見える。私たちは、息を整える間もなく次の更新に追われ、気づけば「変化に適応すること」そのものが、日常の仕事になっている。この速さに、不安を覚える人は少なくないだろう。朝起きてニュースを開けば、知らない技術やサービスが生まれ、社会のルールも価値観も変わっていく。まるで地面そのものが動いているような感覚だ。

だが、その不安は決して劣等感や遅れの証ではない。むしろ、人間らしい時間のリズムを保とうとする、心の自然な反応だと思う。私たちは、風のように過ぎる時間の中でも、立ち止まり、見上げ、考える…そんな緩やかな歩調を必要としている。変化の波を止めることはできない。だからこそ、どう波と付き合うかが問われている。いくつかの小さな“処方箋”がある。

まずひとつめは、「不確実さを受け入れる」こと。

未来はもともと読めないものだと、心から理解することだ。

完璧な予測を求めるほどに、私たちは疲れてしまう。

むしろ、「わからないことが前提」と考えれば、視野は広がる。波に逆らって立ち向かうのではなく、波の上で姿勢を整える。そんな柔らかい身のこなしが、変化の時代を生き抜く力になる。

二つめは、「変わらない軸を持つ」こと。どんなに世界が変わっても、自分の中にひとつ、譲れない価値を据えておく。

それは「人に誠実であること」でも、「自然と調和して生きること」でもいい。その軸があるだけで、情報の奔流に飲み込まれず、自分の判断を保てる。動く世界の中で、自分の心の座標を見失わないための拠り所だ。

三つめは、「小さく更新する」こと。変化を大きく捉えすぎると、心が固まってしまう。けれど、小さな一歩なら、誰にでも踏み出せる。昨日より五分早く起きて、静かに湯を沸かす。見慣れた道を少し変えて歩いてみる。あるいは、興味のなかった分野の本を、一章だけ読んでみる。そんな小さな更新の積み重ねが、心を柔らかく保ち、未知の状況にも自然に対応できる感性を育てる。

そして最後に、意識的に「遅さ」を取り戻すこと。速さばかりが価値になる時代だからこそ、敢えてゆっくりする勇気が必要だ。デジタルの光を閉じて、外の風の温度を感じてみる。季節の移ろいに目を向け、湯気の立つ食卓を静かに眺める。そうした時間の中で、心は次第に整っていく。世界がどれほど速く進んでも、私たちの体内時計は、自然のリズムと共に生きている。「今この瞬間を丁寧に感じ取ること」こそが、変化の速さに押し流されないための最も確かな方法だ。AIが文章を書き、機械が学び、人の判断までもが自動化されていく時代にあって、私たちが守るべきものは、効率や速度ではなく、感じる力、考える間合い、そして人と人が対話する時間なのだと思う。変化は止まらない。けれど、流れに飲み込まれるか、流れと共に呼吸を合わせるかは、私たち次第だ。速さの中に静けさを見出し、揺れの中に軸を見いだす。その姿勢こそが、変化の時代を穏やかに、そしてしなやかに生きるための術である。

…[次回に続く]

おしらせと今月の予定

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに184日間大阪市の人工島「夢洲」で開催された大阪.関西万博が10/13日に閉幕した。愛知万博以来20年ぶりの国内開催で55年前の大阪万博(6422万人)に次いで二番目の2500万人超が来場したらしい。開催前は各メディアが万博を叩きまくって批判したのに、いざ開催しての大盛況になれば沈黙する旧態依然のオールドメディアには呆れるが、それにしても55年前の大阪万博の6400万人を超える来場者には高度成長時代の一端を垣間見て驚きますね!

今月の予定
○11/9日(日)五ツ木模試…受験生対象
○11/22日全国テスト小/中…対象全学年実施
●12/1〜12/13 受験生で、希望者対象の進学相談を実施します。

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