未曾有の大震災の爪痕は、筆舌に尽くしがたい様相を呈していた。テレビでのニュースに目をやると、毎日のように納品に走った国道43号線の⻄宮付近は、なんと高速道路までが倒壊しているではないか…。地震の時間帯にズレが有れば、倒壊に巻き込まれて死んでいたかも知れない…。大学の友人N君が住んでいる⻑田地区は町全体が火災に見舞われ、まだ延焼していると報道されている。N君は大丈夫だろうか…。朝方に次々と飛び込んでくるニュースに驚き、家内とまだ続く余震に備え、身を守る対策に追われていると、ピンポーンとチャイムが鳴り応対してみると、大学の友人F君が血相を変えて飛び込んできた。
有難いことに、どうやら出勤前に私の身辺が心配になって寄ってくれたのだ。我々の安全を確認したF君は、次に自分の会社へとすっ飛んでいった。
錯綜する情報も整理されながら、徐々に被害の状況も報道に加えられていく…。負傷者や死者の数は今後もうなぎ登りに増えていくだろう。倒壊した家屋の数もこれまでの比ではない有様だ。酷寒の中で毛布に包まりながら倒壊したマイホームを虚ろな目で眺めて立ち尽くす人の映像が、次々と飛び込んでくる。
震源地は淡路島の野島断層のズレによる直下型の地震で、マグニチュードは7.3の最大震度7を記録した阪神淡路大震災は6434人の犠牲者と、住宅被害は63万以上にのぼる大激震であった。
私も含め特に関⻄人は、地震が起こらないという都市伝説に毒されていたのか、日頃から地震への備えと意識が皆無に近く、インフラも街も壊滅状態になった現実に、右往左往しながら奔走する他なかった。コンビニの棚は空っぽ、水さえ入手するのが困難で、大都市部の災害に対する脆弱さを露呈していた。
私の取引先の大半が神⼾方面だったので、取り急ぎ各社に連絡を入れるも、電話がなかなか繋がらない…。
東急ハンズ三宮店、神⼾ロフトの担当者に連絡が取れたのも、地震から数日経ってからだった。特に、年末に星電社がハーバーランドに新しくオープンさせた雑貨のアミューズメント施設では、私が企画から参加して立ち上げた[輸入アンティークショップ]の被害状況が気になっていた。クリスマス前のオープンまで日参しながら何とか立ち上げることができた私のショップ以外も、施設全体がとてもじゃないけど商売ができる状態では無い…と担当者は半分泣き声交じりに惨状を報告してくれた…。
私の神⼾の仕入先S貿易から窮状を訴える電話が入ったので、居ても立っても居られず、神⼾方面にバイクを走らせ向かった。
倒壊したおびただしい数の家屋が道路を塞ぎ、車の移動は困難との情報もあり、バイクで移動したのだが神⼾に辿り着くのに普段の二倍以上の時間を費やすほど、街も道路も瓦礫の山になっていた。
ビルが何本も倒壊していて、我が目を疑う光景が続いた。特に⻄宮の倒壊した阪神高速は、映像で見るより生で見た信じ難い無惨な姿が現実のものとして我が目に焼き付いた…。⻑田のN君のマンションも火災から免れて無事が確認できたので途中寄ってみたが、戦後の焼け野原のように何もかも無くなっていた⻑田地区は、火災の恐ろしさを伝えるには十分だった。須磨付近にある仕入先のS貿易に辿り着いて、全壊に近い会社の状態を見て言葉を失った。
憔悴しきったS社⻑は、私に窮状を訴えながら、ため息交じりに会社の行く末ばかりを案じていた。こんな時、慰める言葉が見つからず、私は途方に暮れながら会社に散乱した商品を黙々と拾い集め、片づけを手伝っていた。ところが、一か月ほどした後にS社⻑が急逝された一報が入り、慌ててお通夜に参列したのが嘘のように蘇るのだが、当時は二次災害ともいうべき大震災からくるPTSDや心労から亡くなった方も随分いたらしく、現実に身近な人を亡くして初めて、人間は心の持ち様が大切なのだと改めて感じた出来事だった。
震災後の仕事は大きく激変してきた。まず、取引先の大半を神⼾方面に持つ我が社は、売り上げが激減した。売り上げの減少なら、また売り上げ拡大の為に、新しく販路を増やせばよいのだが、一番困ったのが取引先からのヘルプ要請だった。特に星電社の[アンティークショップ]のヘルプ要請は、社運に関わる決断だった。本来の商取引では一切応じる必要が無い要請内容だったのだが、人間には『情』が有るので、私は大いに悩んだ。要は、アンティークショップを展開する為に我が社から一度仕入れた商品を、全て返品したいので応じてくれないか…という内容だった。担当者は、オープン間近まで企画から商品展開までを私に任せる代わりに、全品買い取り条件で、我が社が全て納入したばかりの商品だった。担当者は泣きながら窮状を訴え、私に懇願するばかりだ。震災後は店を閉鎖する運びになりそうで、店舗そのものの存在が危うい…と訴え、ただし他の地域での新規出店する時は、優先的にアペックスに企画、出店できるように取り計らうから、この非常事態を何とか救って欲しい…と懇願するのだ。
中にはザザビーズで落札した年代物のアンティークもあり、納入した商品の額も半端ではなかったが、大震災を目の当たりに見てきた私は、S社⻑の急逝もあり、『人間困ったときはお互い様だ…』の精神で星電社のヘルプ要請を、受け入れる決断をした。売り上げ減少に加えて、不良在庫に成り兼ねない納入商品の返品を丸々引き受けたのだ。返品を受け入れたからと言って、私の仕入先にそのまま強制返品するような事は、私は絶対しなかった。
私の英断は直ぐに仲間業者の間に伝わり、仕入れ業者の数社が心配なのか、我が社の様子を伺いに訪ねてくる有様だ。そんな時は、敢えて不安を払拭させる為に、早めに支払い小切手を切って支払ったものだ。信用保持の為とはいえ、売り上げの大半を返品で受け入れ、更に仕入先への支払いの先払いでキャッシュフローは逼迫し、たちまち資金繰りに困って奔走することになった。大半の取引先を神⼾方面に持っていた為に、なかなか進まない震災後の復旧、復興と同様に、日常への経済復活は殆ど見込めない状況が続いた。
なんの屈託もなく眠っている我が子の寝顔を覗いて見ながら、行く末を案じる…。軌道に乗り、動き始めたアペックス号も[大震災]という暴風雨に巻き込まれ、沈没しかねない状況に追い込まれているのだ…。このまま坐して死を待つわけにはいかない、ましてや生まれて間もない⻑男に、私の背中をどのように見せればよいのだ…。アペックス号の帆を支える支柱が暴風雨でへし折られたなら、新たに帆を支える支柱を早急に建てなければ、沈没も時間の問題だった…。
私に何ができるか…。私は何がしたいのか…。
日々悶々と考え想像してみた…。すやすやと寝入る息子の寝顔を見ながら、彼の未来を想像し、我が身の幼少から少年、⻘年へと成⻑するまでの過程を、更にわが父の私への思いとも重ねてみた。そして、一つのテーマに行きついたのである。父が口癖のように言っていた[教育]の大切さだ。かつて、父は生きていく為に自身の教育の機会を断念せざるを得なかったが、息子の私へは勿論、兄弟姉妹全員を大学まで行かせたことを誇りにしていた。当の本人である私はというと、紆余曲折は有れども大学卒業は当たり前のように思っていた。
しかし、自分の中では医学部挫折の他学部卒業でもあったので、さほど学歴の意識も無ければ、社会に出てそのメリットも感じていなかった。ただ、私自身、⻑男の誕生で彼の将来を展望したときに、自分の二の舞だけは避けたいという思いに駆られ、寧ろ自分の失敗を活かせるのではないか、と変な自信だけが独り歩きして、息子の未来に繋がる[教育]だけは、揺ぎ無い方針と確信だけがハッキリと持っていたのだ…。
そして、その思いを漠然と息子の成⻑に重ねてみた。
理想の教育をイメージしてみると、あれこれ実際にいろいろと具体的なプランが次々と出てくるのである。いつしか私は、本気で教育を実践する為に、別の事業の柱として[教育事業]を考えていくようになった。
おりしも、当時は中学、高校が荒れて、教育の現場の学校が荒廃しているニュースが頻繁に流れ世間を騒がせていた時期でもあって、現実に我が子供たちの将来の教育に関して、無関心ではいられなかった。
そして私は決断した。あれこれ悩む暇あれば、自分が理想とする教育を自分でやってしまえば早いではないか…。そして、かつて大学生の時に近所の子供たちを指導して、好評を得て親御さんたちにも喜ばれたではないか…。
大震災の後、二月の初旬になっていたが、全く仕事も停滞していた最中だったし、三月まで約一か月有るので、私は決断した。
理想の教育を実践すべく[学習塾]を立ち上げ、事業化していくことを…。
思い立ったら吉日とばかり、決断したその日から奔走し、一心不乱に理想の学習塾を追求しながら、塾関連は全くの素人だったが、三月の開塾に間に合わせるように準備していった。
[次回に続く]
※大震災の後、軌道に乗りつつあったアペックス号は取引先の震災被害に巻き込まれ座礁寸前の危機に陥る…。生まれて間もない長男の寝顔を見ながら、潜在的に眠っていた教育の大切さと、理想の教育に目覚める…。事業の柱がガタガタ崩れるのを黙って見ているだけでは埒が明かないので、教育事業に一歩踏み込む決意をするが…
長期休みは苦手科目の解決に全力を挙げて欲しいと思います。自分で解決出来ない事は、夏季講習を利用して計画的に解決するようにしてください。特に科目のバランスの是正をしないと、受験に不利になるのでこの夏休みに苦手科目の撲滅を実行してください!!
今月の予定
○13日〜19日 休校
○17〜19日夏季特別強化合宿
○24日迄…夏季講習実施中
○31日…中3全国テスト
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