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アペックス便り1月号

◆起業開始早々の挫折〜共同経営者の裏切り〜

未だ販路も全くない状況なのに企画ばかり先行して、しかも分不相応な発注をしようとするNと、私の意見がぶつかったが、仮にも社長という立場もあって、ロット多く発注する方が[安い単価]になるという彼の説を受け入れ予定外の発注をしたのが、後々の大きな火種になろうとはその時は想像さえもしなかった。対外的に見栄っ張りなNは、独占的にアイデアを保護する必要があると力説して、次は[特許申請]を提案してきた。物事を進めるにあたり、私と真逆にカタチから入ろうとするNと、リスクヘッジもしながら先ずは販路の確立が先決だとする私とは、事あるごとにぶつかったが、彼は私の[A交易での営業実績]が有れば販路は後から付いてくると楽観して、どうしても特許申請をすべきだと懇願してきた。東京の虎ノ門に彼のネットワークで有能な弁理士の特許事務所が有るので相談に行きたいという彼の申し出でを了解しなければ、いっこうに事業が進まないので、彼に特許申請を任せることにした。2〜3日後に東京から戻った彼は意気揚々としていた。先ず特許取得の可能性が大きいことと、[乳歯を保管するための記念品]の範疇は全て保全されるので、もし我々の模造や類似を発見したらかなりの賠償金を請求できると、進学塾アペックス起業開始早々の挫折〜共同経営者の裏切り〜寧ろその点を力説するぐらい[捕らぬ狸の皮算用]をしだす始末だった。彼の報告によるとまんざら悪い情報では無かったので、私も特許には同意する他なかった。ただし、問題があった。資金難である。

起業をカタチから入った為か、当初出した出資金500万円二人合わせて1000万円が、予定外の商品発注もあって底が尽きそうだと彼がいうのだ。

実務や経理の一切を彼に任せた私は、彼を信じるしかなかったのだが、特許申請と製作中の商品完成まで数か月ある期間の維持費や営業費にお互い300万円の増資を提案してくる始末だった。未だ一つも世に売っていない段階でこける訳もいかず、起業早々にして私の想定を超える資金を要した事は、内心不安となって彼と蟠っていく原因になったのは間違いなかった。A交易での私の給与は、使う時間も無かったので、当時は2000万円ぐらい預金口座に貯まっていたが、あっという間に800万が減った勘定だ。

起業って大変だ…必ず成功させて見せる!と自分を奮い立たせながら、営業利益の無い準備活動の日々に、焦っていた。私は、製作中の商品が完成するまでの期間、とにかく[見込み客]の取り込みに専念した営業をするべきだ、と主張したが、[営業]は私のフィールドだと言わんばかりに、Nは私に一任する姿勢であった。私も彼を頼りに営業しても埒が明かないので、独自に手探りで興味を持ってくれそうなところに、電話アポ取りと、営業にかけずり回る日々を続けた。サンプルだけを持っての営業だったので、写真を撮って手製のチラシを作って見込み客に手渡すのだが、余りに見すぼらしい資料に良く怪訝な顔をされて資料さえも受け取ってくれない日々が続いた。

中には[歯を残す]なんて気持ち悪い記念品だと揶揄する者もいて、それなら我が子誕生の時に[へその緒]を残している筈でそれを見たらもっと気持ち悪いものだ…と私も反論しながら、この世に無い初めてのものを生み出す営業の難しさを痛感していた。

私の好きな営業の寓話に、アフリカでの[靴販売]のがある。

それは、ニーズ(需要)かシーズ(種)を端的に表現した寓話だが、要は靴を履く文化の無いアフリカに行って[靴販売]をどうするのか?と問われた二人の靴販売営業マンが、一人は靴のニーズの無いアフリカに行っても売れずに徒労に終わるだろうから無駄だ、とする一方で、もう一人の営業マンは[靴を履く素晴らしさ]を教えて広めていけば、無限の需要が生まれるからと、靴を履く文化の伝授にシーズ(種)を蒔くべきだと主張する寓話だ。勿論私は後者のシーズ派だ。普通、脱サラしての起業はこれまでの経験やネットワークを活かし、同業種の延長上での起業が多いようだが、その場合以前の会社での取引先や顧客を奪ったりすることにも成り兼ねず、私の目指す[関わる皆がウィン.ウィン]の理想態にはならないだろうと確信しているからだ。

また、経験だけを頼る事なら退社して脱サラする必要もなく、せいぜい同業他社への転職を計る方が理にかなっているだろう。全く己のチカラを世に試す意味での私自身の決意もあって、私の起業はあくまでも世に無いものと、関わる皆の笑顔が理想であった。営業先で何度も断られても、私は究極の営業マンの【フランシス.コザビエル】を想像しながらシーズ(種)を蒔く営業を続けた。言葉も分からず西洋の彼方から仏教文化の日本にキリスト教を根付かせたザビエルの苦難に比べりゃ、大した営業では無いと常に自分に言い聞かせた。

そんな状況が続く中、Nは京都在住の遠方からの出社を経費の無駄遣いになるからと、商品の納期までの期間は大阪の事務所への足が遠のき、殆ど来阪せずに定期的な電話だけになることが続いた。ある日、又東京の特許事務所にその後の経過や代金の支払いを兼ねて行く必要が有ると言うものだから、今度は私も同席したいと申し出たら、彼は経費の無駄遣いを理由に頑なに私との同行を断るので、何となく嫌な予感が私の頭を横切った。それは現実に、後の急展開の伏線になっていった。

『確かに新幹線で二人なら経費は掛かるが、私のクルマ一台で行けば、新幹線よりも安く行けますよ』と説得して、渋々Nを同意させた。不思議なもので、全幅の信頼を寄せていた元上司に対し、年配を配慮して見ていた角度に少し冷静な見方を変えると、彼の人物像にある種の違和感を抱き、私自身が彼に対し疑心暗鬼になっていたことを完全に払拭したかった思いもあったからだ。私は2度目の出資の際に、これまでの経理の記録や明細をNに見せて欲しいと申し出たのだが、彼の『俺を信用していないのか』という一言でうやむやに終わった一件が、どうしても払拭できず、後々の人間関係に悪く影響してはいけないと思っていたからだ。

100%の信頼を70%ぐらいに割り引くと、意外な彼の一面と言動の矛盾が良く見えたのも気掛かりだった。

そんな中、一人の運転ではハードな行動になる事も想定して、私の実弟に万一に備えて同行して貰うことにした。

当日の朝、京都の彼の自宅に迎えに行くと、弟同伴で現れた私に驚き難色を示したが、日帰りでの二人も三人も車なら経費は同じだ、と言って彼を車に乗せ一路東京の虎ノ門を目指し、高速道路を突っ走った。

後席に座ったNは、終始落ち着きなく他愛のない会話を投げかけてくるが、初めて会う私の弟の存在も有って、会話は弾まず沈黙と無駄話を繰り返す数時間を過ごすうちに、クルマは東京の虎ノ門付近に近づいていた。

目的の特許事務所付近にクルマを駐車しいよいよ事務所に行こうという矢先に、Nは突然我々に言ってきた。『アポ取り無しで大勢で来たものだから、先に私が事情を説明して、後ほど皆で合流しよう。それまでそこの喫茶店で待っていてくれ』と懇願するものだから、我々も面識の無い弁理士との接見を状況確認した後にすることに同意して、とりあえず彼に従った。小一時間程しても彼からの迎え入れが無いので、私は不安になって特許事務所に電話を入れて、Nを呼び出してもらった。

彼曰く、外出している所長が間もなく戻るので待っている…と。だからもう少し喫茶店で待って欲しいと…。渋々了解して、30分ぐらい待っていたが、ハナからNを信用していない弟が『所長は最初から居るのでは?』と言うものだから、しびれを切らせた私も『少し様子を見に行ってくれ』と弟に頼んでみた。ものの数分後に弟が駆け戻ってきて『兄貴、Nは所長と話し合っている!』と言うものだから、我々は急いで特許事務所に駆け込んでいった。『所長をきちんと紹介して同席で話し合う予定でしょ!なんで我々を呼び寄せないのですか?』と語気を強めて私はNに詰め寄った。

特許事務所の所長は、その場の異様な空気を微妙に感じ取っていたようだ。私には、つじつまを合わせるかのような返答をして、私も通り一辺倒の質問や、特許進行状況の確認を済ませ、今後も宜しくお願い致しますと、所長に深々と挨拶を済ませ大阪への帰路に向かおうとした。所長と面談の際、何かあればの万一に備え、帰り際に名刺の裏に自宅連絡先を記して手渡しておいた。

数日後に、私の自宅に東京の特許事務所の所長からの電話が鳴った。

話をよくよく聞くと、東京での面談の際はNに依頼されてNの依頼通りの返答をしたが、私に申し訳なかったと言うお詫びと、実際に自分もNの約束不履行に困っている…との話だった。その内容に言及すれば、要は特許申請の着手金から未払いで、支払い延期を度重ねていることと、そのことを私に伝えないで欲しい…ということだった。

電話を切って全身の力が抜けて、暫く茫然とした。すべてが氷解した。Nは私の知らないところで、何か金銭的な隠し事をしている事実だけが残った。まず彼に預けた800万の行くえを確認せねばならないだろう…。

まさかとは思いながらも、現実に特許事務所の所長の説明では、未払いが続きしかもその事実を私に伝えないように懇願していた…という状況から、Nがおカネに窮しているだけでなく、出資金そのものの管理自体が怪しくなってきているのだ。

私は、怒りで胸が張り裂けそうになりながら、電話をかけてNに真相を追求した。

突然の私の電話に、しかも唐突に未払いの件や、出資金の使い道と管理状況など矢継ぎ早に問い正し、追求されるので、Nは一切返答せずに黙りこくってしまい、ただ『もう少し待ってくれ』と懇願するのみだった…。

煮えくり返った私は、電話を切るやいなやその足で京都に向かってクルマを走らせていた。道中にアタマを駆け巡るのは、つじつまの合わないNの会話の矛盾点が反芻されるばかりだった。『そもそも私に近づき共同経営を持ちかけ、肝要なお金の管理や出納記録をはぐらかし曖昧にするのも、お金の窮地から困って、私用に流用してしまったのではないか…?』と想像するのが自然だった。『なぜ、気にしながら、もっと早く対処しなかったのだ』自分を責めながら、気が付いたらクルマはNの自宅前に着いていた。

[次回に続く]

※共同経営で起業するも、早々に暗雲が立ち込めて座礁する。共同経営者のずさんなお金の管理が発覚し、その真相を突き止めようと奔走するが、発端の糸口がほつれただけで次々と大変な事態に巻き込まれていく…どん底に落ちていく中で、何とか踏ん張ろうともがき苦しむが…

おしらせと今月の予定

新年明けましておめでとうございます。新しく年が明け、新たな気持ちで希望に満ち溢れる祈願を込めて、静かな朝を迎えた事と思います。古くから[一年の計は元旦にあり]と言われて、果たしてどれほど本気で祈願してきたのか省みて、今年こそは[他力本願]を廃し、[自力本願]で新たな境地への挑戦を、祈願し自分に誓っては如何でしょうか…。激動する世界情勢、停滞し混沌の度合を増す国内情勢と不安定の中にも新しい価値観を模しながら時代は確実に変化しています。潮流の傍観者にならず主体となる年を始めましょう。

今月の予定
○12/25日〜1/4日(休講)
○1/5日より新年授業開始!
○1/9日…中3全国テスト
○1/27日…小学/中学の非受験学年の全国テスト

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