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アペックス便り9月号

●アペックス能力開発スクールの誕生

二月に入って[教育事業]として新たな借り入れを銀行から調達して、腰を据えて取り込んだ。周囲の同業者はあまりの転換ぶりに驚いていたが、私にすれば理想の[教育]を実践すべく内心は燃えに燃えていた。

とはいえ、塾の経験値は全くのゼロである。当時の塾環境は、乱立状態から大手の寡占が進み、二極分化が進行する最中であった。特に受験を売り物にする塾と、補習中心の地域密着型の塾が、それぞれのスタンスで生き残りをかけてしのぎを削っていた。なにせ、日本は毎年子供の出生が低下する[少子高齢化社会]に突入していたので、塾業界のみならず子供を取り巻く経済指標は、どれも曇りから雨を示す先行き不安定な環境が示されていた。たまたま当時、感銘した著書にソニーの創業者の一人である井深大の『幼稚園では遅すぎる』という作品に共鳴共感したこともあって、私の[教育理念]にどうしても幼児期の教育環境は外せないコンセプトになっていた。

⻑男の誕生を契機に[教育事業]に踏み出した以上、⻑男を実験台にしながらも理想の教育環境を構築する為に、[幼児教育]は重要課題になっていた。しかし、具体的に[幼児教育]を施す術と経験を持ち合わせていなかっただけにスタートコンセプトの実践から揺らいでいた。

そんな折、仲間業者のツテから私の新規[教育事業]の噂を聞きつけたのか[Kデザイン研究所]なるM所⻑が、私に幼児教室開設のコンサルタント契約を促しに、訪問してきた。契約するかどうかを悩んだが、幼児教育のノウハウや経験も無く塾開設は不可能だろうと、契約することになった。仲介に私の信頼する仲間業者の存在があった為、見知らぬ業者との契約に一抹の不安を抱えながらも、時間的余裕も無かったので賭けてみる事にした。当時の契約金として高いか安いかは分からなかったが、300万円を契約金として支払い、残す一か月弱の急ピッチで幼児教育から小学受験、中学受験と主とする[教育機関]を立ち上げる準備に追われた。私の理想の教育は、子供の誕生前から始まっていると言っても過言ではない。日本では、誕生を機に子供の年齢を刻むが、中国や韓国ではお腹の中から数えるので誕生は既に一歳の数え年が通例である。

最近でこそ[胎教]もポピュラーになっているが、実際にお腹の中での成⻑は[⺟と一心同体]が故に、⺟親の情緒安定と気持ちはダイレクトに胎児に伝わると思う方が素直な感情だろう。その意味で⺟体環境には最善を施し、特にストレスを与えない様に家内への配慮を怠らず、常にゆったりとストレス無く過ごすのが最低限の⺟体環境だと思い、私もその環境維持に努めた。三つ子の魂百まで…の言葉通り、誕生してからのその後の環境は更に重要になってくる。後述するが[教育]の源泉は、環境の中で受ける刺激と好奇心の育成だと思っている。交わる人や、経験する事象や、受ける刺激は、確実に脳と身体に刻み込まれその人間の個体を形成していく細胞レベルで全身に染みわたる筈である。生まれ育つ環境に負う要素として、特に幼児期は吸収の度合いとスピードが破格なので無視できないのだ。⺟親の愛情で支えられ、育まれる環境が全てと言っても過言ではなく、特に三歳までは溢れる⺟親の愛情が教育の全てと言っても良いだろう。そして三歳以降、好奇心旺盛に発育していく脳に、ストレス無く刺激を与え[学ぶ喜び]を如何に身に付かせるかが、その後の成⻑に大きな影響を与えることになっていく。幼児体験は人間形成の土台として大きな要因を占めるのである。その教育コンセプトから教室名は【アペックス能力開発スクール】と命名した。開校までの準備を急いだが、予想外の事態が次々と起こり、先行きに暗雲が立ち込めてきた。まずは人材確保に苦労した。幼児部門は経験豊富な女性講師二人との縁を戴き、現在もアペックスの幼児部門やジュニア部門を支え、活躍して戴いている。ところが、小学生と中学生の指導者や、教室の統括管理する責任者の適任者との縁が無く、結局開校まで採用できないまま、開校時点で私がせざるを得ない状況になっていた。当初は[教育事業]を立ち上げても、指導する事は本業も有るので時間的に無理だろうし、理想の教育機関を作るための構築とその経営に専念する予定だった。しかし、いくら面接を重ねても、自分が納得できる指導者の採用ができないまま、開校の日を迎えてしまったのだ。いざ、自分が指導するとなれば、途中でコロコロ交代もできず、本業との二足の草鞋を履く覚悟をせねばならなかった。

教育事業というのは、子供の人生に関わる大切な教育の一端を担う仕事である。単に経済的な理由や、自己都合だけで勝手に解消することも出来ないことになる。たった一人でも生徒が来れば、全力で指導にあたり、教室運営は維持されなければならない。私にその覚悟はあるのか?自問自答を繰り返しながら反芻したが、私の理想の教育コンセプトは揺るぎがなかった。⻑男の誕生から、彼の成人する最低20年間というスパンで未来を想像してみた。どんな未来が来ようと自ら学ぶ教育スキルを持つ人間は強い。理論も大切だし、何より実践できる行動原理に一流の教育環境で揉まれ、学び、経験で裏打ちされた者ほど強いものは無いだろう。かつて自分が歩んだ教育環境を振り返り、もっとこうすべきだった…や、こんなことが出来れば最高だろうに…等、次々とアイデアや理想の具体策が湧き出てくる…。どうやら、私の教育に賭ける想いは本物の様だ…。そして、一切の迷いや不安もなく、私自身が直接指導する覚悟も出来て三月の開校を迎える事となった。アペックス能力開発スクールの誕生である。

●無名の教室の苦難

開校するにあたり、幼児指導を中心とする塾の開設を地域に告知することが何よりも重要になってくる。ところが、コンサルタント契約を結んだKデザイン研究所のM所⻑の広告スキルが、にわかに疑わしくなってきた。地域に新聞折り込みのチラシで広告を打つことに関しても、過去に経験が無かったのかチラシの配布の方法や、肝心のチラシのデザインのひな型さえ提供されない有様だった。そんな点を追求しても、行き当たりばったりの返答なので、結局、私自身がデザインをして、配布エリアの構成と手配まで急遽することになった。たまたま、本業でのインセンティブ事業で培ったノウハウが活きたのだが、私のKデザイン研究所に対する疑念は膨らむ一方だった。塾部門での運営方法の指導を仰いでも、素人でもできる代物ばかりの提案だった。そんなコンサルタント指導が続くので、私はKデザイン研究所を仲介した仲間業者に現実の問題と不満をぶちまけてみた。

仲間業者は申し訳なさそうに『いや、実際のところ異業種交流会で知ったばかりで、良く分からんのですわ…ただ、アペックスさんの教育事業の事を話題にしたら、何が何でも紹介してくれと懇願されたもので…』と紹介の経緯を話してくれた。仲間業者は私に詫びるかのように、その後も調査してKデザイン研究所の情報を提供してくれた。なんと、コンサルタント実績は殆ど無く、自分たちの作成した幼児教育のテキストの販売が主たる目的で活動している企業のようだった…。しかも資金繰りが逼迫していた様で、正に渡りに船とばかり、アペックスの教育事業の話が舞い込んだものだから、コンサルタント契約で活路を見い出そうとしていたようだ。なるほど、経験も実績も無い指導の中身に私が薄々疑問を感じるのも無理が無かった。私はM所⻑に、コンサル指導の不備、不満を伝え、コンサル契約の解消と返金を求め直談判することにした。ところが、こちらの主張を聞くどころか、上から目線で[幼児教育]の蘊蓄をかたり、自分たちの落ち度を認めようとしないので、私は心底煮えくり返ってしまった。そもそも教育をネタに食い物にする根性が露呈されたうえに、アペックスを利用して繋ぎ資金のためのコンサルタント契約が暴露されたのも同然なのに、開き直る態度が許せなかった。私はおカネを取り戻そうというよりも、この手の輩をのほほんと生かしておく訳にいかず、抹殺する為に大学の大先輩の弁護士と相談して⺠事訴訟を起こすことにした。

結局、裁判は相手の欠席も続き、私の一方的な主張が認められて勝訴したが、賠償金の大半は弁護士費用に消えて50万円だけ戻ってきた。

あれだけ、私に上から目線で語ったM所⻑は、私との対峙を恐れてか一度も裁判所に姿を見せず、そのまま裁判所命令に従い敗訴を受け入れたみたいだ。コンサルタント契約は高い授業料になってしまったが、以降、独自で理想の教育を構築する為に独立独歩で歩む覚悟も出来たのは良かったのかも知れない。私は、金銭よりも大切なことが世の中には一杯あると思っている。まずは信用と信頼だ。そして、関わる人との互いの尊重だ。

しかし、人間としての尊厳を踏みにじられたら、命を懸けてでも戦うべきだと思っている。教育という聖域で、私を食い物にしようとしたことが分かった以上、私は戦わずにはいられなかっただけだ。M所⻑も何度も仲介した仲間業者に訴訟の取り下げを求めてきたが、断固として受け入れなかった。詐欺に近い活動で、今後も私のような被害者を出さない為にも訴訟は取り下げなかった。そして私は勝訴して、改めて一人きりで自分が立ち上げたアペックス能力開発スクールの船出の舵取りをすることになった。

[次回に続く]

おしらせと今月の予定

列島各地から酷暑のニュースが途切れることなく入り残暑はまだ続きそうです。夏休みを終えて後半戦に入る受験生は、この秋の実力養成期を如何に充実させ合格力を磨くかにより来期の本番の成果に反映されるところです。目標の志望校突破に向けて、揺ぎ無い思いと集中力で、残暑を乗り切っていきましょう!

今月の予定
○8月31日…中3全国テスト
○16日(月)敬老の日は通常授業です。
○30日(月)振替授業[10月分の授業]


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