異例の暖冬が続き、雪不足で冬のレジャー施設が悲鳴をあげているのも束の間、日が長くなるにつれ春の足音が日増しに近づいてきています。
入試も佳境を超え大詰めを迎える中、新型コロナウィルスの猛威が世界各地で拡大の勢いが止まらず、目に見えない恐怖がじわじわと忍び寄り、不安な日々が続きます。連日飛び込むニュースは人間の脆さや脅威に対する無力さが目立ち、パンデミックに至らぬよう対応に追われる政府も、後手になりがちな対策が国民に更なる不安を与え兼ねない状況です。
前例のない危機に対する管理は、政府レベルも、我々個人レベルも本質的には同様です。マスク不足の状況に、便乗転売をする強欲な人がいる一方で、支援物資として無償で贈る人もいる。人は極限に迫られた時にこそ真価が問われるものです。せめて私欲や利己的行動だけは慎み、不信の悪循環だけは根絶したいものです。
入試シーズン真っ只中である。デジタル花盛りの時代はとっくに認識しているつもりだが、この時期に、やはり馴染めないのがネットによる出願や合否発表だ。
確かに、瞬時に処理できて効率的かもしれないが、何とも味気ないって言ってしまえば、古臭いで片づけられてしまうだろうか。
自身を顧みても、志願した学校に願書を書くときは、願望と不安を入り交ぜて何度も自分の名前すら下書きしながら記入した緊張した記憶が蘇る。
何せ家族とも社会とも暫くの間自ら遮断した、覚悟を持って人生を架けて臨んだ試験だった。ましてやその合否発表が時間と共に掲示板に貼りだされる瞬間の緊張は筆舌に尽くしがたい最高潮の緊迫だ。今でも瞬間の歓声と、足早にその場を立ち去る対照的な光景が目に焼き付いている。スピードも良いが、一瞬が永遠に感じる経験は、人生にとって代え難いのではないか。
報われた時のこれまでの苦労や努力や試行錯誤が、走馬灯のように駆け巡り、一瞬で消し去ってくれる体の芯から湧き出る喜び。報われなかった一瞬が、今後も更に永遠に続くかも知れない、と自責する上に圧し掛かる重圧と不安。
人生の悲喜こもごもを、志願した学校空間で、五感で感じた瞬間やその場の空気の与える影響は、デジタルでは絶対に体感できない、糧になり得るモノだ。
何しろ、想いや魂が凝縮されて入れ込んだ過程そのものを、具現化された現象として捉える体験になるからだ。時間が人間を熟成させるのは、発酵と同じかもしれない。味わいや、醸し出す個性は、何よりも過程で熟成されなければ、単なる化学反応で、具現化できない。手間ヒマ掛けて、試行錯誤する過程は、一瞬の成功を見逃さない。失敗の連続が永遠には続かない、と努力する過程で希望へ変換する力になる。結果には原因がある、因果応報を、過程の時空間の過ごし方で、自己の身体への刻印が自ずと違ってくるのでは無いだろうか。
S N Sは便利だが肉筆の手紙には勝てない。T V は便利だが劇場に足を運んで観る映画の感動には勝てない。デジタル書籍は、ページをめくりながら立ち止まり熟考できる本には勝てない。何より、過程での想いや間を考える余裕を与えず働きかけないからだ。便利なデジタルで見失ったアナログの良さも再考しながら、是非[時の熟成]を楽しみ[発酵]してゆく過程を大事にしてみてはどうだろう。
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